20151005

■ 互生本能 / オルタナティブ■

タイトルは「母性本能」みたいで語感が良く 気に入っています。互生(ごせい)=alternativeとは、植物の葉が茎(幹)に対して1枚ずつ方向をたがえて付くこと。基本的にディッキアはロゼットを形成するなか、互生する原種は数種しか存在が確認されていません。代表的なのは自分も大好きな D.estevesiiD.pottiorum です。野性味溢れる草姿がたまりませんね。
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Dyckia estevesii






E.Esteves Pereira氏の名を冠した扇形になる原種のディッキアです。ホロタイプはブラジル ゴイアス州のカイアポニアとリオ アラグアイアの間に位置する乾性植物の低木地帯で氏が発見したとあります。他のディッキアとは完全に孤立した系統にあることは一目で分かりますね。葉色は強光下では赤み帯びてきます。
立ち上がった茎から左右に葉を展開し、大株になるとだんだん前かがみに倒れてきて、倒れて空いたスペース(背中側)の基部または下葉と下葉の間から子株を出します。花茎は細く、こちらも成長点に近い葉腋から伸ばしてくる事が多いです。花は他のディッキアと比べると小ぶりで、形状はゴエリンギーの花と似ており、開ききらない花弁からやくだけがひょっこりと出ます(うちの環境では)。なかなか綺麗にピンと立ち上がったまま育てるのが難しいので、前かがみに倒れるのが本来の姿なのでしょう。

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Dyckia pottiorum




こちらは比較的最近 原記載された、ブラジル南西部マットグロッソ・ド・スル州(サンパウロとパラグアイの間辺り)原産の互生するディッキアです。写真Constantino氏許可を取ってお借りしました。いつもありがとうございます。初めてこの写真を見た時はD.estevesii以外に互生の種がいたなんて!しかも地面を這うように葉を展開する...だとぅ...!と、衝撃を受けました。pottiorumという名前は植物学者Arnildo Pott Vali Joana Pott氏の名に因んで付けられた献名で、Elton Leme氏によって記載されています。色はグリーン・赤・シルバ・白と様々な色の個体が確認されています。
D.pottiorumは強烈な日射しが降り注ぐアレナイト(赤い砂岩)の荒野で発見され、岩場の露頭に蓄積された浅い土壌に小さなコロニーをなして生息しているそうです。D.estevesiiより小ぶりで多肉質な葉で、なんといっても地面すれすれに横たわって成長するのが奇妙ですよね。カラカラの浅い土壌に根を張っているので自重を支えきれず自然と地を這うような形になっているのか、もしくは太陽光を遮るものがないゴリゴリFull-Sunの過酷な環境に自生しているので、直接太陽光を受ける面積を減らすため自ら倒れているのかもしれません(上の写真をよく観察すると葉の縁の方が黄色く葉焼けしているので)。背中に乗っているように見えるのは子株ではなく、苞(苞葉)にあたる部分です。他のディッキアでも花芽を伸ばし始める前に分頭?花芽でるの?どっち?と迷うアレです。子株は基部近辺から出ます。D.estevesiiは脇芽も互生した状態で生えてきますが、D.pottiorumの子株はロゼット型から成長と共に徐々に互生する特徴があります。また、環境による影響もありそうですね。残念ながら、こちらの種が発見された自生地のコロニー(上の写真)は飢えた野生の牛がこの種を食い尽くしてしまったそうです(涙)。そして、このタイプロケーション以外の場所ではまだ発見されていないようです。

今回ご紹介した以外にも あまり知られていない原種で、 D.mirandanaD.mauriziae 二種は互生するディッキアとして記載されていますが、参考となる資料が少ないのでまたの機会に。また、まだ原記載されていないsp. にも互生する個体が発見されています。
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'Red Dragon'   

xDyckcohnia 'Conrad Morton' × Dyckia estevesii


これは交配種ですがとても面白い交配内容です。Dyckcohnia自体Dyckia×Deuterocohniaの属間交配ですがそれにestevesiiを掛け合わせるという、もはや乱交過ぎてよく分かりません(笑) 1/4デウテロコニアの血が入ったクオーターってことになるんですかね。交配主がどなたなのか存じないのですが(汗)、名付け親は育種家・様々な植物のコレクターとして有名なタイの Chanin氏と聞いています。
D.estevesiiより圧倒的に鋭く大きい鋸歯を持っています。小さい頃は互生を保っていましたが、置き場所が悪かったのか鉢を回して上げるべきだったのか、旋回し始め螺旋階段のようになり、常に互生するDNAとロゼットを形成するDNAが戦っているような気がします。 
この個体が一番美しかった頃の写真。本当に神話に出てくるドラゴンなどの幻獣的なカッコよさ!この写真を撮影した直後に成長点から花茎を伸ばしこちらの株の成長は終了してしまいました。 
その後1年間放置した結果、、、いたるところから子株が発生!しっかり活着した状態から花化けしたり成長点が通常通り成長できなくなると、このように葉腋や基部から沢山の子を吹くことはよくあります。

今回は「互生」をテーマにご紹介させていただきました。きっとまだまだ世界には想像もつかないような不思議な形態のディッキアが発見されず、どこかでひっそりと自生しているのだと思います。ブラジルはとてつもなく広いですからね!ブラジルにお住まいの愛好家・植物学者の皆様、遠く離れた日本から応援していますので、新たなディッキアの風をお届け下さい!楽しみにしております!