20180928

■ Dyckia goehringiiを求めて ■

こちらは過去に何度かD.goehringii について書いた記事をまとめ、編集したREVISED(訂正版)になります。昔書いた記事は説明不足や誤字脱字(D.goehringiiのスペル間違ってたw)が 多かったのでそれらを訂正し、大幅に内容を増量しました。ほぼ全て書き直したに近い内容です。是非 読んでいただけると幸せ。


Dyckia goehringiiは、私がディッキアを好きになるきっかけとなった原種です。2014年の春、初めて海外からブロメリアを個人輸入した際に、なんとなくリストにあったD.goehringiiも買ってみたんですね。当時はBillbergiaが好きだったので、本当に「ついでに買ってみた」といった感じでした。届いたダンボール箱を開け、ドキドキしながら新聞紙に包まれた苗達を開梱していくと、鋸歯の跡がくっきりと刻まれた美しい葉と、鋭くカーブした大きな鋸歯の真っ白なディッキアに衝撃を受けました。「こ、こんな美しい植物がブラジルのどこかに生息しているのか!?」と。それがD.goehringiiとの出会い、そしてディッキア沼の扉でした。。この沼は深く、ずぶずぶと歩み進んでいるうちに、気づけば自分の身長より遥か深いところまで潜り込んでおり、最早どっちが前で どこに向かっているのかすら見えなくなっております(笑)。初めてゴエ様を手にしてからはD.goehringii について調べまくり、聞きまくり、集めまくりました。そして棚がD.goehringii でいっぱいになった時に気づいたのです。流石にこんな同じ種ばかりいらなかったと....(笑)スペースの都合でだいぶコレクションを整理しましたが、今もなお愛してやまないこの種をご紹介させていただきます。
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Dyckia sp. E-362 (Photo from Die Bromelie 2004_3)


1979年にブラジルの植物学者Eddie Esteves氏が、 ゴイアス州の西部で採取したsp. E-362(E.Esteves氏のコレクションナンバー)が、後にD.goehringii として記載されることになる個体と思われます。1981年と86年にドイツ ハイデルベルグ大学のW.Rauh博士はブラジルの植物調査のため現地へ足を運んでおり、その際 E.Esteves氏のもとを訪れています。そしてE.Esteves氏のガーデンで、彼がブラジル各地で採取した多肉植物・サボテン・ブロメリアの中に新種と思われる特徴的なディッキアを見つけ、研究・原記載のための個体や資料の提供を頼んだそうですDie Bromelie 2004_ 3_P64-65より)。その個体がハイデルベルグとリオデジャネイロの標本室に送られ、開花を経て1991年にDyckia goehringi  E.Gross & Rauh と同定されました。goehringii いう種名の由来はハイデルベルグ大学植物園で地生ブロメリアの管理責任者を務めていた Adalbert Gohring 氏の名に因んで命名されたそうです。日本ではゴエリンギーと読むのが一般的ですが、ゲーリング氏の名前からなので、正式にはゲーリンギーと読むのかな?←ラテン語発音だと語尾のiiは「ギー」とのばすのではなく「ギッ」っと切るような発音になるそうなので「ゴォエリンギッ」が近い感じだそうです。因みにですが、タイ人は「ゲーリンジィーア~イ」と言う方が多いです。

余談_
W.Rauh氏が原記載に必要な資料を現地からハイデルベルグへ送る際に、なんと採取地のラベル間違いが起こってしまい、採取地情報が実際の地より100km以上離れたミナスジェライス州シャパーダ・ディアマンティーナ付近で原記載されています。実際 E.Esteves氏がD.goehringii を発見したのは、ゴイアス州の西部、マッドグロッソ・ド・スル州との州境近辺のカンポ・セラードのようです。CSSA jornal :Succulent and Xeromorphic Bromeliads of Brazil : Part 3: Dyckia goehringii / PIERRE J BRAUN & EDDIE ESTEVES PEREIRAより)

Brazil 高原 カンポ・セラード参考写真

カンポ・セラード は地名ではなく、草原の中に低木が分散して生える植生(サバナのような)の事

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D. goehringii  (Specimen / Botanical Garden of The University of Heidelberg)

こちらがハイデルベルク大学植物園に保管されている標本株の写真です(同職員Timm Stolen氏撮影)。我々が日本で見るD.goehringii よりだいぶ赤い気がしますが、ディッキアは栽培環境で葉の色は著しく変わりますし、地域差や同じコロニーに生息する個体群でも葉の色に違いが出たりするようです。「Dyckia Brazil」Constantino氏は「ブラジルで採取したゴエリンギーに緑の個体はなく、緑の遺伝情報は種に隠されている(実生の疑いがある)」と意味深なことおっしゃっていました。(しかし出処確かな個体も日本の冬の日照条件下では赤みは薄れてきます。)
こちらは4年前に某オークションで上のハイデルベルクの標本株のクローンとして手に入れた自分が所有している個体です。葉の色や鋸歯、花茎色を見る限り、たしかに上の標本株の血を引いていそうなルックスです。ストロンが長〜いですね。エイリアン感が凄いです。

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D.goehringii (white form)


こちらはDyckia Brazil Constantino氏由来の野生採取株からのクローン。氏の友人が中央ブラジルで採取した他より一際白い個体。こちらは強い雨に打たれたり、成長点に水が貯まるとすぐにトリコームが黄ばんだり剥がれ落ちるのできれいに育てたいのであれば、絶対に頭から水をかけないほうが良いです。ハイデルベルグ植物園でブロメリアを管理しているTimm Stolen氏も同じことをDie Bromelieで書いています(Constantino氏もDyckia Brazilでそうおっしゃっていました)。こちらは温室栽培ですが、もっとゴリゴリのfull-Sun & 雨ざらしで育てると、先頭の sp.E-362 のように育ちそうですね。とにかく白く美しい個体です。

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D.goehringii (from M.Kiehl) 


この個体が文頭に書いた 自分が初めて個人輸入した時に届いた個体。現在直径40cmゴエ。2017年の日本ブロメリア協会の総会で地生ブロメリア部門で金賞をいただいたD.goehringiiです。国内で「Original Clone」「Type clone」という園芸ラベルで、流通しているのは大体こちらになります。Kiehl氏は十数年前にブラジルのコレクターから譲り受けた野生採取株一本から長い年月をかけて増やしたとおっしゃっていました。ゴエリンギーは成長が非常に早く仔吹きもよいので、今ではお値段も落ち着き手に入れやすいのでオススメです。

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D.goehringii (from Tropiflora)    


こちらのナーセリーから世界中に販売されたクローンは、写真のように縁が濃い赤になる個体が多いです。Kiehl氏の個体より小ぶりでボールシェイプになりストロンが長く伸びる傾向にあります。しかしKiehl氏由来のものも日照条件や個体の大きさによりこのような葉色になる時期もありますし、このクローンも強光線下では赤くなります。。もともとD.goehringii が持っている性質なのかもしれません。Constantino氏はD.goehringiiの葉はゆるいアーチを描き、ボールシェイプになるもの、葉色が緑のものはアメリカ産ハイブリッド(実生)だとブログに書かれていますが、こちらを指しているのかな?と思うのは、私が深読みしすぎ?


D.goehringii  Type Cloneという表記について

先日タイのQさんのガーデンを訪れたので、彼のD.goehringii に付いているこの「Type Clone」というラベル表記について、その意図を聞いたところ「Type form(これも正式に扱われる語なのか不明ですが)」と同義で使っていると言っていました。つまり 「原種なので、産地などによる多少の形態の違いがあるD.goehringiiの中の一つで、typeとして基準になっているフォルム・特徴に準ずる(スタンダードな)個体」という意味で使っているそうです。ですので、その札で出荷しているD.goehringiiの中には上のKiehl氏からきた個体もあれば、TFからきたものもあると言っていました。これでQさんから仕入れた時期によって鋸歯や葉色の違い、ストロンの形状にの違いがあることに納得がいきました。タイではKiehl氏由来の「Original Clone」という園芸ラベルを避け、type cloneまたはtype formと呼ぶ方が多いです。自分も原種にOriginal Cloneという名称が付いているのが、どうもしっくりきません。以前これについてこのブログに書いた事がありますが、やはり誤解を招いたり、人のものをあやしいと言うのならその根拠を示すべきだとのご意見もいただきましたので、今回訂正を兼ね、D.goehringiiに関する記事を全てこちらにまとめた次第です。しかし、私もそのご意見をいただいた方と同じ事を言いたかったのです。オリジナルと断言して販売するならその根拠を示して販売すべきなのではないかと....買い手からお金取るんだから。。自分がこんなブログに書くよりよっぽどきちんと説明しないといけないのでは?ということを言いたかったのですが、、、文章ってムズカシイ。。でもワタクシ学習しました。他人がどんな過剰なセールストークで何を売ろうが、そして誰がそれを買おうと自分が口を出したり、ブログに書いたりすべきではなかったと。。

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D.goehringii var. Lemei (New form) 



こちらもWhite form 同様、ブラジルのConstantino氏からQさんへ渡った野生採取株からのクローン。Constantino氏 は当初 New formと呼んでおりましたが、E.Leme氏が中央ブラジルで採取したことから最近ではvar.lemei(変種レメイ)と呼んでいます。D.goehringiiの生息地域(環境)の違いによる変種と思われます。ストロンは非常に細長く、まるで触手のように伸びてきます。(てか、そっちより同じ鉢で育ってるドルステニアが気になりますね....w) くっきりと葉に刻まれる鋸歯の跡と息を飲む白さ.....最っ高ですね!こちらの品種はQさんがタイで増やしたものが日本でも ちょこちょこ流通していますが、ストロンが異常に長く、小さい苗は非常に活着させるのが難しいです。過去最高に苦戦しました。

こちらが1年3ヶ月の沈黙を破り生還した勇者(鉢系12cmなので写真で見るより実物は小さいです)。上の親株からのクローンです。2017年5月に届いて植え付け、動き出したのが2018年8月....逆によく生きてたな...と思います。しかし、苦労した分 愛おしい。。

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D.goehringii (#EL2718) 


こちらは自生地の写真で、EL2718E.Leme氏のフィールドコレクションナンバーです。個人的見解ですと、この写真は上のvar. lemeiと呼ばれる変種と同じ(もしくは非常に近い)地で採取されたのではないかと思います。葉や鋸歯、ストロンの形状が似ていますし、子株も上に掲載した自分の個体と似ています。この写真はTropifloraのWebサイトから拝借しております。以前送られてきた会員セールのリストにこの写真を見つけ、「マジかっ!!」と胸を踊らせオーダーしようと思いましたが、おそろしく安価なうえに先に買っていた友人に聞くと、届いた株はもう一つ上で紹介したグリーンに赤い縁の個体だったそうです。他の友人も全く同じ事を言っていたので、Tropifloraサイドでラベルミスが起こり、そのまま管理されてしまっているのかもしれません。現在自分もTropiflora経由で日本に流通しているEL2718を購入して育ててみていますが、こちらの写真の個体とは似ても似つかない別物の可能性が非常に高いです。自家受粉の実生なのか??この写真の個体が欲しい.... 
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D.goehringii (#EL2508)   写真協力 : SUNRAINSOIL 


こちらもELナンバーが付いた個体。10年以上前にアメリカ(おそらくTropiflora)からタイのNo.1 原種コレクターの元に渡ったもの。この個体はCSSA(Cactus and Succulent Society of America)のJOURNALで、 PIERRE J BRAUN氏とEDDIE ESTEVES氏が連載していた「Succulent and Xeromorphic Bromeliads of Brazil」で紹介されていた 下のゴイアス州西部の自生個体にそっくりです。
今までこのタイプは「鋸歯小さいなぁ...」と、スルーしてきましたが、好みが3〜4周して最近コレが一番カッコよく見えてきている自分がいます(笑)

ご覧いただいた通り、同じ種でも産地による違いが多数存在します。また、D.goehringiiとだけ表記され、世に流通している株の中には、自家受粉やシブリングクロスによる実生株も多く存在します。正確には (Self.)、(sib.)、(hyb.) (seedling) など追記されるべきなのでしょうが、そこまで正確に書かれていないのが現状だと思います。実生選抜で特徴的なものには「Special Spine」などその特徴が追記されていたり、cv.として名前が付けられているものもあります。

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D. 'Mahachai'  (goehringii seedling select)

Sueb氏のゴエリンギー実生選抜個体。彼の住む街の名前 Mahachaiと名付けられています。ピンクの美しい葉色にとんでもなく詰まった鋸歯を持ち、意外とコンパクト!!可愛いですね。こんな厳ついのに女性らしさを感じさせます。


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D.`Samed Rtp' (Bromeliad Cultivar Register 14438)


D.goehringii×D.goehringiiのシブリングクロスから生まれた斑入り園芸品種。通称='Andaman'の名でも流通しています。斑入りというか、もうレインボーカラーですね。作出者Rattanapong氏の略Rtpと彼の住むSamed島が名前の由来。こちらも自分が手に入れた4年前はかなりの高値で取引されていましたが、めちゃくちゃ増えるので供給量が追いつき最近では比較的安価で手に入れることができます。goehringiiのフォルムのまま葉色は全く原種とは異なるトロピカルな雰囲気が最高です。

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D. `Pink Thorns' (Bromeliad Cultivar Register 14013)


Qさんのハイブリッド D.goehringii F1で、花粉親不明のオープンポリネーションシードからの選抜です。その名の通りピンクの鋸歯が美しい。こちらの品種は強光線下で乾燥気味に育てないとこの色を維持するのが難しいです。

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D.pectinata x goehringii (Super white)

こちらもQさんのハイブリッド。原種同士の交配でこの白さは凄いです。この赤葉にワックス質なトリコームが乗ってピンクがかった色がめちゃくちゃ自分の好み どストライクなんですよ〜。メチャクチャ好きなんですが、かなり巨大化するので美しさを維持するのが大変です。



D.goehringii特集(?)いかがでしたでしょうか?原種・交配種共に非常に魅力的ですよね!初めての輸入の際なんとなく買って、ここまでディッキアにハマるとは想像もしていませんでした。ディキ神様の啓示だったのか?とにかくgoehringiiに出会えて良かった!という事で締めさせていただきます(笑)。いつもブログの締めが思い浮かばず困ります。。。